2011年3月11日の東日本大震災の地震により、東京電力福島第一原子力発電所では、外部からの送電が受けられなくなり、さらにその後の大津波の襲来で電源が失われ、原子炉内部の冷却機能が喪失しました。高温になった原子炉内の機材と炉内の水蒸気の化学反応で発生した水素が建屋内に蓄積して『水素爆発』が起こり、1・3・4号機の原子炉建屋が大きく破損しました。また、格納容器のベントが適確に行われず、大気中に多量の放射性物質が放出される事態になりました。
この事故により、原子力発電所周辺住民の多くが県外に避難したり、県内に留まるも放射線の影響や健康・生活に不安を抱えながらの生活を余儀なくされました。
廃炉までの40年。福島県民はこの間、否応なしにこの原発事故につき合い、向かい合っていかなければなりません。
県民1人1人が「放射線を正しく知って、自ら考え、判断できる力をつける」ことが肝要であると考え、薬剤師の持つ学術特性と資質を生かし、県民に正しい情報と知識を伝えていくことが福島県に住む薬剤師の責務と感じ「放射線ファーマシスト養成事業」を2013年にスタートさせました。
この事業では、
具体的には、
これからも福島県民に寄り添い、県民の健康に寄与し、福島の復興に貢献していくために、薬局や学校等において「放射線の正しい知識の啓発」や「相談活動」を実施していきたいと思います。
A.トリチウムは、宇宙線などの影響により、自然に生成され、主に酸素と結びつき、液体や蒸気の形の「トリチウム水」として、海や河川、雨水や水道水等に存在しています。
自然に生成されるほか、原子力発電所の原子炉内で人工的にも生成されていますが、自然と人工で性質に違いはありません。
トリチウムが放出するβ線は、空気中を約5mmしか進めず、紙1枚で遮蔽することができ、皮膚は通過できません。そのため、外部被ばくによる影響は、ほとんどないとないとされています。
トリチウムは、水道水などを通じて、人の体内へ取り込まれており、体内には常に数10Bqのトリチウムが存在しています。
体内に取り込まれたトリチウムは、水の形で存在している場合、10日程度で尿や糞便などで、半分が体外に排出されます。
トリチウムの内部被ばくによる影響は低いことが予想されており、ICRPではその預託実効線量係数を0.000018μSv/Bqと見積もっています。自然放射性核種のカリウムの係数が0.0062μSv/Bqですから、同じベクレル数であっても影響は約1/344ということになります。
海洋放出されるALPS処理水は、海水により国で規制されている基準の1/40に希釈された状態で放出されるそうです。その人体への影響については、自然から受けている放射線の量と比較すると、約100万分の1~約7万分の1と見積もられているそうです。
A. 政府によりますと、ALPS処理水とは、汚染水をALPS(多核種除去設備)で浄化処理した結果、トリチウム以外の核種について、環境放出の際の規制基準を満たす水と定義されています。
ALPSで浄化処理した水のうち、安全に関する規制基準を満たしていない水(処理途上水)は、希釈前の濃度で安全に関する規制基準値を確実に下回る(トリチウム以外の核種の告示濃度比総和が1未満になる)まで何回でも二次処理を実施することにより、環境中に放出するトリチウムを除く放射性物質の量を可能な限り低減するそうです。この希釈前の時点でトリチウムを除く放射性物質の告示濃度比総和が1未満でない処理途上水の放出は行わないとされております。
放射性物質名 | 1ℓ中 | 告示濃度比 | 告示濃度限度 |
セシウム137 | 45Bq | 0.5 | 90Bq/ℓ |
ストロンチウム90 | 9Bq | 0.3 | 30Bq/ℓ |
ヨウ素129 | 0.9Bq | 0.1 | 9Bq/ℓ |
放出水のトリチウム濃度は、国の安全規制の基準(告示濃度限度)60,000Bq/Lおよび世界保健機関(WHO)飲料水水質ガイドラインである10,000Bq/Lを十分下回るものとし、現在実施している地下水バイパスやサブドレイン等の排水濃度の運用目標と同様に1,500Bq/L未満とするそうです。
放出直後(敷地境界)における環境への影響軽減のために設けられている国の安全規制の基準(告示濃度限度)を満足させるため、また、消費者等の懸念を少しでも払拭し、風評影響を最大限抑制するため、取り除くことの難しいトリチウムについては、大量の海水で(放出される処理水中のトリチウム濃度に応じて決定、概ね100倍~1,400倍以上)希釈してから放出するとのことです。
ALPSで除去できないトリチウムの年間放出量は、当面、事故前の福島第一原子力発電所の放出管理値である年間22兆Bqを上限とし、これを下回る水準とするそうです。
海洋放出にあたっては、少量から慎重に開始することとし、設備の健全化やALPS処理水の移送手順、放射性物質の濃度の測定プロセス、放出水のトリチウムの希釈評価および海洋への拡散状況等を検証することとしています。
万一、故障や停電等により移送設備や希釈設備が計画している機能を発揮できない場合は、直ちに放出を停止するそうです。また、海洋モニタリングでベースラインモニタリングの変動範囲と有意な差が見られた場合には、安全に放出できることを確認した上で実施するそうです。
福島県薬剤師会が作成したテキスト(初級編、中級編、上級編(各論、Q&A)、資料編)を用いて、初級⇒中級⇒上級とステップアップしながら放射線ファーマシストの養成講習を行っています(各級とも年1回の開催)。
また、上級放射線ファーマストは3年毎の更新制で、3年に1度以上フォローアップ研修を受講することになっており、常に新しい情報・知識を習得し、県民の皆さんからの相談にお答えしています。
「教えて!放射線ファーマシスト」は放射線に関する正しい情報をよりわかりやすく伝えるために県民へ配布している資材であり、「放射線ファーマシストガイド」は、放射線ファーマシストの特性を理解していただくために一般向け用と学校や関係機関向けへ配布している資材です。
学校薬剤師が、学校での薬物乱用防止教室と併せて、放射線教育も行えるよう10のテーマでパワーポイントを作成しています。この資料を活用し、放射線ファーシストの認定を取得している学校薬剤師が、学校での放射線教育に携わっています。
自然界にある放射線/食事に含まれる放射線/自然界から受ける放射線の量/人工的に受ける放射線
放射線の種類/外部被ばくと内部被ばく/放射線とDNA損傷/人体の防御システム
放射線の危険性/放射線の利用
放射線とは/放射線の性質について/半減期とは
飲料水/農林水産物/加工食品/学校給食/家庭で育てた野菜等の自主検査
空間の放射線量を調べる/表面汚染を調べる/個人被ばくを調べる/甲状腺の検査について/食品中の放射性物質を調べる/環境モニタリング
放射線が高くなりやすいところは?/外部被ばくを防ぐには?/内部被ばくを防ぐには?
身の回りの放射線/福島原発事故の概要/原発事故による汚染の現状/県民健康調査/国連科学委員会の報告
ALPS処理水/身の回りにあるトリチウム/トリチウムの性質/トリチウムの体への影響
ALPS処理水の放出方法/海外の放出状況/海洋モニタリング/海洋放出による影響