じめに

2011年3月11日の東日本大震災の地震により、東京電力福島第一原子力発電所では、外部からの送電が受けられなくなり、さらにその後の大津波の襲来で電源が失われ、原子炉内部の冷却機能が喪失しました。高温になった原子炉内の機材と炉内の水蒸気の化学反応で発生した水素が建屋内に蓄積して『水素爆発』が起こり、1・3・4号機の原子炉建屋が大きく破損しました。また、格納容器のベントが適確に行われず、大気中に多量の放射性物質が放出される事態になりました。
この事故により、原子力発電所周辺住民の多くが県外に避難したり、県内に留まるも放射線の影響や健康・生活に不安を抱えながらの生活を余儀なくされました。
廃炉までの40年。福島県民はこの間、否応なしにこの原発事故につき合い、向かい合っていかなければなりません。
県民1人1人が「放射線を正しく知って、自ら考え、判断できる力をつける」ことが肝要であると考え、薬剤師の持つ学術特性と資質を生かし、県民に正しい情報と知識を伝えていくことが福島県に住む薬剤師の責務と感じ「放射線ファーマシスト養成事業」を2013年にスタートさせました。

この事業では、

  1. 県民に放射線の正しい情報を伝え、相談にも応えること。
  2. そのために大学で学んできたことや職能を生かし、放射線に関する正しい知識を持つ薬剤師(放射線ファーマシスト)を養成すること。
  3. 原子力災害時の緊急被ばく医療活動において薬剤師としての役割を担うこと。

具体的には、

  1. 福島県内の状況の把握
    空間線量の推移、安定ヨウ素剤の配布・配備、避難地域の現状、廃炉の現況、
    県民健康調査の状況、風評被害など
  2. 相談事例の収集
  3. 養成研修のテキスト作成
  4. 研修会の開催
  5. 県が実施する原子力防災訓練への参画等
養成研修のテキスト

これからも福島県民に寄り添い、県民の健康に寄与し、福島の復興に貢献していくために、薬局や学校等において「放射線の正しい知識の啓発」や「相談活動」を実施していきたいと思います。

 

 

沿 革

沿革

2013年3月
福島県薬剤師会に「放射線ファーマシスト委員会」設立
放射線医学総合研究所 石原弘博士に指導依頼
2014年10月
放射線ファーマシスト養成講習開始
2015年4月
相談受付事業開始
2016年12月〜
福島県学校薬剤師会との共催研修会開始
2017年10月〜
東京電力福島第一原子力発電所視察
2017年11月〜
福島県原子力防災訓練参画
2018年6月
福島県教育庁放射線・防災フォーラム参画
2019年11月
商標登録取得「放射線ファーマシスト®

講演等の活動実績

  • フランス使節団視察受け入れ
  • 岩手県薬剤師会
  • 日本薬剤師会試験検査センター技術研修会
  • 日本薬剤師会学術大会(口頭、ポスター発表)
  • 北海道・東北六県薬事情報センター連絡協議会
  • 日本女性薬剤師会移動セミナー
  • 東北学校薬剤師連合会連絡協議会
  • 東北薬剤師連合会
  • 鹿児島県薬剤師会

 

 

射線に関する相談受付事業

2016年から薬局等の窓口で、県民の皆さんが薬局等の窓口で県民からの不安や疑問に思っている放射線に関する相談にお応えしています。
毎年、200件近くの相談が寄せられており、2022年3月31日現在までの相談実績は、1,263件になります。
特に、毎日口にする食品に関する相談を多くいただいています。
ポスター
グラフ

相談事例と回答例

Q. 福島県産米の検査は、まだ実施されているのですか?

A.平成24年から8年間、福島県全域で玄米の全量全袋検査を実施してきました。直近5年間の検査では、国が定める基準値超えの玄米がなかったことにより、令和2年産米からは避難指示等のあった12市町村(田村市、南相馬市、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯館村及び川俣町(旧山木屋村))を除いて、緊急時環境放射線モニタリング検査に移行しました。
 なお、避難指示等のあった12市町村で生産された米は、全て全量全袋検査を実施しています。
グラフ

(出典:福島県ホームページ・米のモニタリングに関するお知らせ「令和2年産米のモニタリングの流れ」
 https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/389159.pdf,2021/4/19)

 なお、簡易検査器によるスクリーニング検査を実施し、基準値の100Bq/kgを少しでも超える可能性があると判断された場合は、ゲルマニウム半導体検出器による詳細検査が実施されます。その結果100Bq/kgを超過したものは、隔離・保管され、基準を超過したものは、流通していません。
 福島福島県内で生産した玄米の検査結果は、「ふくしまの恵み安全対策協議会放射性物質情報」に公表されています。

Q. 現在、福島市内の放射線量は平成23年当時と比べるとどのくらい下がっているのでしょうか?
 除染作業も終了したようですが、大丈夫でしょうか?

A. 平成23年12月に福島市は、汚染状況重点調査地域に指定されていましたが、東京電力第一原子力発電所の事故当時に比べて、今では1~3号機からの放射性物質の放出が大幅に減り、大気中には、ほとんど検出されていません。
 また、放射性物質の自然減衰(物理的減衰)やウェザリング、除染の実施等もあいまって、現在、環境省が示す除染実施計画を策定する地域要件の環境放射線量 毎時0.23μSvを下回っています。

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(出典:ふくしま復興ステーション「県内7方部 環境放射能測定結果」より作成,
 https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/16025d/kako-monitoring.html,2021/4/16))

 なお、2018年3月末までで、面的除染は完了しています。
 ただ、福島市は、汚染状況重点調査地域の地域指定が解除されていないため(2019年8月28日現在)、面的除染後も除染効果が維持していない箇所が確認された場合には、個々の現場の状況に応じて、原因を可能な限り把握し、追加被ばく線量に加えて、汚染の広がりや除染の効果、実施可能性等を総合的に勘案し、必要と判断されればフォローアップ除染を行うこととしています。

Q. 原発事故から10年が経ちますが、放射線による健康被害はありますか?

A. 福島県立医科大学 放射線医学県民健康管理センターの「県民健康調査」によると、放射線による健康影響は確認されていません。
 その一方で、避難を余儀なくされたことなどによる生活環境の変化が、健康にもたらした影響が指摘されています。県民健康調査の調査項目の一つである避難区域などの住民を対象にした健康診査で、肥満や高血圧、脂質異常、糖尿病などの生活習慣病が増えたことが分かりました。

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(出典:福島県立医科大学 放射線医学県民健康管理センター「福島県「県民健康調査」報告 令和元年度版」,http://kenko-kanri.jp/img/report_r1.pdf,2021/4/17)

 詳しくは、第34回「県民健康調査」検討会(平成31年4月8日開催)を参考にしてください。https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai-34.html

Q. 福島県沖で水揚げされた魚から基準値超えの放射性セシウムが検出されたとの報道(2021年2月22日)が
ありましたが、福島県産の魚は食べても大丈夫なのでしょうか?

福島県沖の魚から、放射性物質が検出された報道内容

 2021年2月22日に新地町の沖合8.8㎞、水深24mの漁場でとれた、クロソイから放射性物質が検出され、福島県の研究所で詳しく測定した結果、放射性セシウム濃度が500Bq/㎏と、国の食品の基準である100Bq/㎏を上回った。
 福島県沖の漁で基準値を超える放射性物質が検出されたのは、およそ2年ぶりで、2020年2月には全ての魚種で出荷制限が解除されていた。
 福島県漁連は、安全性が確認できるまで、クロソイの出荷を停止することを決めた。今後は、国の原子力災害対策本部がクロソイの出荷制限を指示する見通しである。

 

 東京電力福島第一原子力発電所の港湾内で調査のためにとったクロソイからは、2019年に900Bq/㎏の放射性物質が検出されたことがありました。
 東京電力は、港湾出入り口に、魚の出入りを防ぐ網を設置していますが、福島県水産海洋研究センターでは、新地町沖の海水や海底の放射性物質の濃度が低いことを考慮すると、このような高い数値の放射性セシウムが検出された理由は不明であり、福島第一原子力発電所港湾内の魚が出入りしている可能性も視野に入れて、原因を調査しています(2021年2月22日現在)。
 福島県では、震災直後の2011年4月から緊急時環境放射線モニタリングにより、魚介類への放射性物質の影響を調査しています。調査の結果、福島県沖の魚介類の放射性セシウム濃度は低下傾向を示しており、2015年4月以降は100Bq/kgを超過する検体はなく、2020年2月には福島県沖の魚介類で出荷制限指示対象種はなくなりましたが、2021年4月19日に原子力災害対策本部が福島県に対し、クロソイの出荷制限の設定を指示しました。2021年4月19日現在で、出荷制限となっている水産物は、次のとおりです。

魚種 出荷制限
ヤマメ(養殖を除く) 猪苗代湖及び猪苗代湖に流入する河川(支流を含む。ただし、酸川(支流を含む。)及び酸川との合流点から上流の長瀬川(支流を含む。)を除く。)、太田川(支流を含む。)、新田川(支流を含む。)、日橋川のうち東京電力株式会社金川発電所の上流(支流を含む。)、真野川(支流を含む。)並びに福島県内の阿武隈川(支流を含む。)
ウグイ 真野川(支流を含む。)
ウナギ 福島県内の阿武隈川(支流を含む。)
アユ(養殖を除く) 真野川(支流を含む。)、新田川(支流を含む。)
イワナ(養殖を除く) 福島県内の阿武隈川(ただし、信夫ダムの上流(支流を含む。)を除く。)
コイ(養殖を除く) 秋元湖、小野川湖及び檜原湖並びにこれらの湖に流入する河川(支流を含む。)、長瀬川(酸川との合流点から上流の部分に限る。)
フナ(養殖を除く) 秋元湖及び秋元湖に流入する河川(支流を含む。)、長瀬川(酸川との合流点から上流の部分に限る。)、真野川(支流を含む。)並びに福島県内の阿武隈川のうち信 夫ダムの下流(支流を含む。)
クロソイ 最大高潮時海岸線上宮城福島両県界の正東の線、我が国排他的経済水域の外縁線、最大高潮時海岸線上福島茨城両県界の正東の線及び福島県最大高潮時 海岸線で囲まれた海域

 福島県では、今後も安全性の確保と出荷制限指示解除のため、モニタリング検査を継続する予定です。検査結果はふくしま復興ステーションにて、毎週公表されています。

Q.只見町に宿泊した時、わらび・ゼンマイ・ふきなどの山菜採りは出来るがコシアブラだけはダメと言われた。
 何故でしょうか?

A. 野生のコシアブラは食品中の放射性物質モニタリング検査の結果、出荷制限されているためです。放射性セシウム濃度の高い原因として、コシアブラは他の樹木よりも放射性セシウムを良く吸収・蓄積すること、根から吸収された放射性セシウムが蓄積されやすい新芽を食べること、さらには根からの放射性セシウム吸収量が増大する春が旬であることなどが挙げられます。

射線ファーマシスト®養成事業

福島県薬剤師会が作成したテキスト(初級編、中級編、上級編(各論、Q&A)、資料編)を用いて、初級⇒中級⇒上級とステップアップしながら放射線ファーマシストの養成講習を行っています(各級とも年1回の開催)。
また、上級放射線ファーマストは3年毎の更新制で、3年に1度以上フォローアップ研修を受講することになっており、常に新しい情報・知識を習得し、県民の皆さんからの相談にお答えしています。

上級放射線ファーマシストは3年毎の更新制

 

 

発資材の作成・配布

「教えて!放射線ファーマシスト」は放射線に関する正しい情報をよりわかりやすく伝えるために県民へ配布している資材であり、「放射線ファーマシストガイド」は、放射線ファーマシストの特性を理解していただくために一般向け用と学校や関係機関向けへ配布している資材です。

教えて!放射線ファーマシスト

教えて!放射線ファーマシスト

放射線ファーマシストガイド

放射線ファーマシストガイド